非通知

 エアコンが切れた部屋で半裸で汗だくで寝ていたら携帯電話が鳴る。非通知番号。電話の向こうで若い女の声。寝ぼけながらもあぁそういえば前にも一度誰だか分かる?分からない。分かんない?分からないから名乗ってよ。本当に分からないの?という会話を知らない番号から掛かってきたのを思い出す。同じ女かな?僕はベッドにうつ伏せのまま考える。明日会おうよ。女は言う。誰か分からないんだ。本当に分からないから名乗ってくれないか。僕は知り合いなら非通知で掛けてくるわけないだろうと思いながらも相手に問い詰める。……ユミ。ユミ?うん。僕はその名前に心当たりがあり過ぎて困惑する。今の彼女も、その前の前の彼女も、一番長く続いた彼女の名前もユミ。一度だけ、いや三度か寝た京都の女の子の名前もユミ。京都の?うーん……なぜそこで言葉を濁すのだろう。僕の知っているユミならまず非通知で掛けてくるはずがないし、だからこそ京都の?と問い掛けてしまった自分の浅はかさを情けなく思った。そして悪戯なら京都のユミを騙ればいいのに、彼女は濁した。一体どちらのユミさんだろうか。明日、会おうよ。もう一度彼女は言う。だけど僕は君がどこのユミだか分からない。からかっているのか?会おうの意味が分からない。会ってどうするんだろう。知らない相手と会うことができるのか。色々と頭の中で考えたけれど、いいよと僕は承諾する。電話の向こうでユミが少し驚いたような声を出す。僕はそのままじゃぁ明日2時にイーマの地下でと一昨日ユミと待ち合わせた場所を指示する。絶対来てよ?ユミが言う。分かった。僕は電話を切り時計を見る。21:50。悪戯電話をする時間か?と少し考える。イーマの下で待ち合わせてそこから僕はどうするんだろうか。ユミが観たいと言っていたレオナルドディカプリオの映画でも観るのか。知らない女と?そもそもユミは来るのか。考えるのが面倒になってエアコンを3時間タイマーにセットしてもう一度寝る。