メロン

 あれ、なんかいいにおい。そう言って和美さんは僕の耳の後ろらへんの髪に顔を近付けた。くすぐったいような心地いいような背中がざわっとする感覚と共に、女の子特有のなんともいえないやわらかいにおいが僕を包む。なんか甘いお菓子みたいなにおいだね。なんか付けてるの?あ、いや朝、美容室、行ってきたから。若干たどたどしく答えた僕は、さぞかし子供っぽく見られただろう。動揺すら悟られているに違いない。いつも行く美容室で最後に付けられるワックスがいつも甘い香りで、そんな香りのワックスがあるのかは知らないがなんとなくメロンっぽい匂いだと僕は思っていて、子供の歯磨き粉みたいでちょっと好きじゃない。慌てて早口でそう付け加えた僕を見て、和美さんは笑いながらもう一度僕の頭に顔を寄せる。さっきよりもっと分かりやすい仕草で鼻を僕の後頭部へ。和美さんの口が僕の首筋をかすめたような気がして、もっと僕は動揺する。あー確かに美味しそうだね。美味しそうという言葉を都合のいいように解釈して僕はさらに動揺する。漫画かなんかだったら顔を真っ赤に塗られていたに違いない表情で、美味しくないよと真顔で返す。その態度が面白かったのか和美さんは僕に負けないくらい顔を真っ赤にして笑った。