ダウニー

コートを羽織るとフードのファーから彼女のにおいがする。びっくりして見ると真横が彼女のコート。

彼女のにおいというか煙草の臭いを嫌う彼女が愛用しているファブリーズのにおいなんだろうけど、彼女を抱きしめたときに薫るから、僕の中では彼女のにおい。

バイト用のハンガーパイプが人数の割に短く、ぎゅうぎゅう詰めになってたのが良かったのだろう。ファーに顔を埋めながら彼女にメール。においで満足してるなら今日行かなくていいよね的なレスに慌てて携帯をぽちぽち。駅に着くまでの5分ですら惜しい。このままにおいが取れなきゃいいのに。意味ないと思いつつ風でかおりが飛ばないようにゆっくりと歩いてみたり。今日は遅くなるから行けないかもと彼女。このコートがあれば平気と打ってもう一度ファーに顔を埋めるとさっきよりにおいが薄れている。思わず袖口を臭うもあんまりにおいはない。やっぱり会いたい。抱きしめたい。と打っては消して会いたいですとひとこと送信。なんとなくもう一度袖口をにおうが無臭。むしろなんか横に座ってるお姉さんの香水のにおいがする。迷わず立って座席は諦める。会えないなら尚更。電車の出入口付近に移動してファーに癒されよう。と思うが微かに残る彼女のにおいが会いたい気持ちを増幅させて、消えゆくにおいになんとなく焦燥感を感じちゃったりして、僕はやっぱり会いたい抱きしめたいと伝える。