サイレン

 消防のサイレンの音で目が覚めた。ここに越してきて4ヶ月が過ぎようとしているけれど、サイレンの音を聞いたのは初めてだった。
 実家はここから電車で1時間の隣町にある。近所に消防団のポンプ車の車庫があるから、サイレンが鳴るととてもうるさい。遠くに聞こえるサイレンの音を聞いて、あぁここは実家じゃないんだなと思った。
 
 実家に帰ることに決めたのは1週間前の土曜日。決意したその気持ちが揺るがないうちにと、4ヶ月前ここへ荷物を運んでくれた引越し屋に電話した。概算見積の値段を聞いて、あぁ冷蔵庫とか洗濯機の家電はどうしようかと気付いた。4ヶ月しか使っていないシングル用の家電一式は6帖しかない自宅の自室には入りきりそうにない。
 悩んだものの、再来週の日曜日に引越しすることに決めた。
 母親にメールを打つ。なんて説明すればいいんだろう。親に対する嘘が大きくなり過ぎて、これ以上嘘をつけそうになかった。傷心ガールの振りをして、洗い浚い全部話してみようかとも思ったけれど、歪に伸びたプライドが邪魔してできそうになかった。
 メールは「再来週、帰る。」と一文書いただけで後が続かなかった。
 このまま送ればいつもみたいにジャンプを読みに帰ってくるだけだと思われるだろう。なんとか理由を作って説明しなければならない。生活に困って、というのは別のプライドが多少邪魔したものの一番納得のいく言い訳だと思った。
 
 本当の理由なんて、自分自身にもわからないんだ。