weezer

(インターホンが鳴る。深夜1時半。モニタ越しに見慣れた顔の男。今日はめがねをかけていない。解除ボタンでオートロックの扉を開ける。1分もかからないうちに再度インターホン。ドアの向こうに男の影を確認する前にロックを開ける。何度も見慣れた顔の男。こんばんはと無意識にぼそぼそと交わす。部屋は散らかり、台所には食器の山、惜しげもなく室内用の物干しに吊るされた下着、来るたびに汚くなってる気がすると男が言う。女はそれに答えることなく紅茶を2人分用意する。)
 
 あのね気がついたんだけど。ジャージにスウェットのどう見てもやる気のない格好に紅茶を手にした真由子が言った。なに?紅茶の入ったカップに口を付けながら目だけで彼女を見る。あなたってウィーザーだと思うの。前の彼はレディオヘッド。真由子は大真面目な顔でそう言った。ウィーザーってweezer?そう。泣き虫ロック。……そりゃ酷い言われようだね。そうかしら。ウィーザーって普通で退屈だと思ってたけど聴くと案外いいのよ。フォローになってないね。そうかしら。彼のレディオヘッドのわけは?彼、おでこが広かったのよ。……。でもね、わたしウィーザーってよく知らなかったのよ。普通で退屈だと思ってたくらいだしね。あなたがウィーザーみたいだって思って、今日調べてみたら。それがきっかけで調べるなよ……。調べてみたらあなたっていうかむしろ前の彼の方がウィーザーだったの。泣き虫ロック?ええ。……よくわからないな。うーん、なんて言ったらいいのかな、彼って、レディオヘッドの皮を被ったウィーザーだったのよ!!!
  
 真由子は延々とウィーザーと彼との接点を力説した後、泣いたり笑ったり落ち込んだりポピーザぱフォーマーみたいに散々表情を変えた。挙句の果て、僕が話している間に寝息を立ててしまった。まぁこれもいつものことだったので、僕は仕方なく彼女の寝室の電気を消して出しっぱなしのコタツで2杯目の紅茶を頂きながら深夜番組を見てゲラゲラ笑うのであった。