51 「ファンタジー」とは?

 この部屋には2種類の時間が流れていて、朝日が昇るころにお昼ご飯を食べたりする。
 僕は2時間ほど仮眠しただけで先程から仕事を続けている。目が冴えているのは、仮眠をしたせいではなく、白い時計が午後1時20分を指しているからかもしれない。部屋に唯一ある窓からは朝の白い空気がこぼれ、冬の寒さを感じる。
 白い時計に住む丸い目をした少女は名前がなくて、僕は彼女をウサギと呼んだ。ウサギは肌が白かったけれど目は勿論赤ではない。先日から読み始めた小説に出てきたキャラクタから拝借したと正直に伝えれば、まぁ安易にひとを名付けないでよなどと拗ねた口調で僕に言うかもしれない。
 ウサギは昼の1時半だというのにまだ白い時計の中でぬくぬくと眠っており、僕は永遠に続きそうな朝日の中でたくさんの誘惑に負けながらちまちまと仕事。
 あと2時間で永遠になんて続かない朝が終わる。朝が終われば魔法が解けて、僕は青い時計の世界に戻らなくてはならない。それまでにひとことウサギに伝えたいことがあるのだけれど、きっと間に合わない。魔法が解けるまでにこの仕事を終えなければ、僕は僕の時間に戻れなくなってしまう。
 煙草を少しだけ吸って、ウサギのことを少しだけ想って、僕は仕事を続ける。