図書館

 僕は図書館で本を借りる。カウンタの向こうの香坂さんは僕のことに気付かずに、黙々とパソコンに数字を打ち込んでいる。眼鏡の香坂さんは大学を卒業したての21歳で僕より7つ年上。彼女は図書館の近くのグレーのマンションの203号室に一人で住んでいて、僕は時たまそこで勉強を教えてもらっている。勉強の合間にセックスをする。セックスの合間に勉強すると言った方が良いのかもしれない。もしかしたら香坂さんは僕にセックスを教えているつもりなのかもしれない。僕にセックスを教えたのは学校の先輩で名前は忘れてしまった。体育倉庫なんてベタな場所で僕は初めて見る女性器のしょっぱさに驚いたっけ。高坂さんはそのときの先輩よりずっと落ち着いていて僕は少し安心する。毎回何度も何度もセックスするのに嫌そうにしないから好きだ。香坂さんはずっと表情を変えないけれど、いく瞬間だけ少し泣きそうな顔をする。切なそうな顔をする。僕はきっとその顔が好きだ。女の8割は演技だってクラスのみんなは言う。高坂さんは演技はしていないと言うがきっと演技なんだろう。でもそれには気付かない振りをする。それがマナーだってこと、僕にだって分かる。
 高坂さんは僕が高校生になってから、図書館の館長と結婚した。写真で見た館長はしわしわのおじいちゃんだった。
 僕よりあんなおじいちゃんが良いの?
 高坂さんはいつもみたいに表情をあまり変えず少しだけ微笑んだ。