ドラマ性のない日々。

 金曜の晩に繭子が訪ねてくる。黒のパンツにストライプのシャツ。上に白いユニクロのパーカを羽織っているものだから、教育実習生みたいに見えると繭子に伝えると、照れたような困ったような怒ったような複雑な顔を僕に向けた。僕は彼女のその不思議な表情が好きだ。
 僕がインターネットをしている合間に、彼女は着替えて1週間分の溜まった洗い物をがしがし片付ける。少々洗い方が雑ではあるが、小まめに洗ってくれるので正直助かっている。洗った後の少し冷たい手で僕の素肌を触るのだけは勘弁してもらいたいものだが。
 それから繭子はお風呂に入って、僕は安い梅酒を飲みながら本を読む。お風呂から上がった繭子の髪を乾かす。犬になったみたい。繭子が言う。僕も犬を乾かしてるみたいだと思っていたので少し笑う。喉が渇いた!と机の安い梅酒に手を伸ばして繭子はそれを一気に飲み干す。苦い顔。お茶だと思った。甘い!と舌を出してこれでもかというくらい顔をしかめる。その顔が面白くて僕は少し笑う。敷きっぱなしの布団に繭子が倒れる。酔ったわけではない。僕は読みかけの本を置いて、繭子に覆いかぶさりじゃれる。きゃっきゃと小さい子どものような声を出して繭子が笑う。ひげが伸びかけのあごを彼女の頬にこすりつける。痛い痛いと彼女が笑う。年末に帰郷した際、4歳の姪っ子に同じことをしたなと思い出す。繭子に言うと姪っ子と同じように口を突き出して拗ねるんだろうなと想像して顔がにやけた。
 布団に入って僕は本の続きを読む。横で繭子が口を開けて寝ている。テレビで誰かが嫁の寝顔はかわいいと言っていたが、繭子の寝顔はあまりかわいくない。見慣れたその寝顔にキスすると、ぱちぱちと繭子の黒い目が開いて僕を見る。でもすうっと目が閉じて彼女はまた眠る。僕は本を諦め部屋の電気を消す。繭子を抱きしめる。首筋に唇を当てると彼女は小さい声を漏らす。小さい子どもみたいに笑っていた繭子が僕の陰茎を口に含む。僕はあっという間に果ててしまう。そのまま寝て仰々しいアラームの音で目が覚める。
 そんなに頻繁に会ってたら飽きるんじゃないの。昔付き合っていた恋人にそう言ったことがある。刺激的とまではいかないが毎日それなりに楽しいし、それが当たり前になりつつある。くだらない再放送を見て休日を無駄に過ごすのも悪くないのかもしれない。出不精の僕は毎日それでも良いけれど、明日はふたりで少し大きめのベッドでも買いに行こうか。繭子は、うれしいとはにかみが混ざってさらにその感情を隠そうとした複雑な顔で頷いた。