まぐろ 動かない女

 ただいまー。僕はいつもと変わらないダルい声で暗いリビングに言った。ただいまー。僕は慌ててさっきより少しは張りのある声で暗いリビングに言った。しまった今日は亜紀が家に来ているんだった。いわれてみれば玄関の鍵が閉まってなかった。いや閉まってたか。僕は慌ててスニーカーを脱ぎ捨て廊下をどしどし、暗いリビングに明かりをつける。もしかしたら亜紀がぼくの為に手料理のひとつでも作ってくれてるかと思ったがどうやら杞憂。彼女は少しだけ乱れた服装でソファでうたたねしていた。チェックのワンピースが少しだけめくれ、白い太腿に僕は少しドキリとする。黒い七分袖のカーディガンもズレ、同じように白い肩に僕はゴクリと息を飲み込んだ。亜紀ー?部屋着の黒いジャージに着替えながら呼んでも返事が無い。どうやら本格的に眠ってしまったようだ。時刻はまだ6時半。昨晩はとても疲れていたようなので寝かしてあげよう。出しっぱなしの肩にタオルケットをかけ、僕は先にシャワーを浴びることにした。
 
 亜紀は同じ工業高校の同級生だが、科が違ったため知り合いではなかった。彼女が建築科で僕は土木科。偶然同じ大学の同じ学部(都市デザイン工学とかいう建築と土木を合体させたような学部である)で会っても気付かなかった。(僕はかわいい子だと密かにチェックはしていたのだけれども)なんかの拍子に高校の話になりそこでお互いびっくりしたのは今でも覚えている。それがきっかけかどうかはわからないけれど僕らは仲良くなり、僕がよく亜紀の家に遊びに行ったりしていた。そういえば、彼女と付き合って2年になるけれど、僕の家に来たのは初めてじゃないか?
 
 洗濯したてのバスタオルで頭を拭きながらソファを覗くとまだ亜紀は同じ格好で同じように眠っていた。あんまり寝顔が幼いので僕は性的興奮なんて覚えなかったけれど、ふっくらした唇から覗く白い歯を見ていると自然に彼女にキスをした。亜紀の唇は冷たい。クーラーを効かせ過ぎた。風邪でも引くんじゃないかと思い慌ててエアコンを消し、亜紀を抱きしめた。亜紀はほんとうにあどけない顔で僕の腕で眠っていた。僕はやっぱり性的興奮は感じなかったけれど、ちょっとしたイタズラ気分というか出来心というかまぁそんな感じの軽い気持ちで亜紀のカーディガンを脱がし、ワンピースの背中のファスナを下げた。
 
 亜紀。もう一度確認のために呼んでみたが、まだ起きそうにもない。ぼくは亜紀をそっと愛撫し舐め吸い噛んだ。相変わらず眠ったままの亜紀の肌はとても白い。僕は夢中で亜紀を抱き、乱暴に愛した。亜紀?僕の下敷きになった亜紀は返事をしない。亜紀。亜紀。僕の肩に冷たい亜紀の白い足。亜紀。君はまぐろかい?冗談ぽく言ってみたがやはり反応はない。傷つけてしまったのだろうか。僕は急に不安になって、さっきよりはかなりやさしく、やさしく亜紀に挿した。最後にはやっぱり乱暴になってしまったけれど、亜紀のなかへ僕の精子が残った。
 
 しばらく余韻に浸っていたけれど、気づくと僕はびっくりするほど汗だくで、あぁそういえばエアコン消したんだっけ。ソファに亜紀を残したまま、テーブルのリモコンを取りに行った。エアコンをオンにしたピッっという音と同時くらいに後ろからゴトッっと大きな音がしてソファの亜紀が床に、落ちた。