お医者さんごっこ

イトーヨーカドーでおもちゃの聴診器買ってきた。僕は大学の実験用の白衣を着て、聴診器を首から提げて、寝起きでパジャマ姿の美雪をダイニングの黒いスツールに座らせて診察する。
 
「はーい。聴診器当てますから服ちょっとあげてくださーい。」
 
半分寝ぼけたままの美雪が桃色のチェックのパジャマを少し上げる。僕はその中へ手を差し入れ彼女の乳房の内側下部あたりにそっと聴診器を当てる。冷たかったのか美雪の身体が一瞬びくっとする。鼓動は聞こえない。聴診器を数箇所ずらしながらパジャマの裾から覗く白い肌を見る。
 
「んー大変です、鼓動が聞こえません。
 これは手術が必要ですね。緊急手術です。」
 
そこで美雪が少し笑ってあきれたような顔。それおもちゃの聴診器でしょう?
 
「はいはい、早く手術しないと死んでしまうかもしれません!
 そっちのベッドに移動してください。早く早くっ!」
 
スツールに座った美雪の腕を無理やり引っ張り、隣の部屋の僕のベッドへ連れて行く。もーなぁに?朝から君は元気だねぇ?より一層あきれ顔になった美雪がしぶしぶ立って自らベッドへ寝そべる。
 
「はーい。じゃ手術しますから服脱がしますねー。」
 
美雪のパジャマを上下とも脱がしにかかる。ちょっとちょっと健ちゃん寒いよ。笑いながら美雪が言う。僕は美雪の頭の上にあるエアコンのリモコンに手を伸ばし暖房をつける。ベッドの美雪は全裸で寝そべっている。
 
「はーい。じゃぁまず佐藤さんが途中で動くと困るのでー、手と足を縛りまーす。」
 
えーー。言葉とは裏腹に嫌そうでない美雪の声。僕はそれを無視してサイドテーブルに置いてあった手錠を手早く彼女の手足に掛け、もう一方をパイプベッドに固定する。ていうかさー、健ちゃんこんなのいつ買ってきたの?
 
「はーい。じゃぁ手術の前に消毒しますねー。」
 
手錠の横に置いてあったローションをたっぷり美雪の身体に塗っていく。最初はくすぐったがっていた声がだんだん甘い声に変わっていく。大変だ。病状が悪化してますね。早く手術をしなければ!美雪の苦笑。
 
「じゃぁ、そろそろ手術しまーす。準備はいいですかー??」
 
あきれ顔のままはいはいと2回美雪が頷くのを確認してから、僕は白衣の胸ポケットから医療用のメスを取り出し自分で「メス。」と言った。そんなのも揃えてきたの?それほんもの?あきれ顔を通り越し美雪は顔をしかめる。僕はそれを無視して財前五郎よろしく左手を白い腹にそっと当てメスを入れる。つーーーっと5センチほど白い線が入りじわりと赤い線に変わる。美雪の悲鳴。手錠とパイプベッドの金属音。涙目の美雪。痛いよ健ちゃん、どうしたの?やだよう痛いのはやだよう。健ちゃん?
 
「だいじょうぶだいじょうぶ。
 手術が終わったらもう痛みなんて感じなくなるからね。」
  
今度は右の乳房のふくらみにメスを入れる。さっきよりも心持ち強めに。今度はメスを入れてすぐ赤い血が溢れてきてメスから滴る。ぽたぽたと白い肌に赤い水玉ができる。僕は純粋にとても綺麗だと思ったので「綺麗だよ」と美雪に伝え、まだ白い左の乳房にキスをする。美雪は僕の想像通り大暴れしていて、安物のパイプベッドが悲鳴をあげていた。美雪は僕に何か言っているようだが何も聞こえない。口だけをぱくぱくさせて必死に僕に何かを訴えているように見える。ウイルスが声帯まで侵しているのかもしれない。とりあえず、もう3回腹部と乳房を切ってから、侵された喉を手術することにした。慎重に慎重に強く美雪の喉を胸と平行に切る。先ほどとは比べ物にならないほどの血液が流れ出し僕もメスもベッドも美雪も真っ赤になった。美雪の血はとても温かくそれは美雪の胎内の温かさと同じだと思った。ほどなくして美雪が動かなくなり、手術が成功したのだと思った。