フジコ

 もうさー意味のないセックスはしないでおこうと思うんだ。
 僕の上で腰を揺らしながらフジコが言った。
 で、これはなんなわけ?セックス。もうしないんじゃなかったの?あーうん。してるじゃん。うん。なんでしないでおこうなんていきなり思ったの?だって、気持ちよくないし。……。面倒だし。そうですか。うん。悪いもういくわ。気持ちいいよ。
 
 フジコはいつも最後だけ目を細めて気持ちいいと言う。これが社交辞令の一種だと気付いたのは付き合って半年ほど経ってから。付き合っているときから彼女は今みたいに無気力で、でも拒まず感じずいつもぼけっと天井を眺めているだけだった。
 なんかやっぱよくないかなーって思って。何が。好きでもないひととこういうこと、するの。そりゃぁね。残念?そりゃぁね。そっか。でもまぁ気持ちよくないとか言われたらなぁ。気持ちいいよ。なにそれいつもの社交辞令?フジコは無言で笑う。少し悲しそうに見えたのは、僕の勝手な思い込みと、フジコの顔がそう見えるようにできているから。
 
 あたし幸薄そうってよく言われるから。
 それって結構な武器になるのよね。
 やっぱり淡々と言っていたのは何年前だったか。今の笑顔も彼女の計算された無意識なんだろうなと思った。
 
 1ヶ月前、4年振りに連絡が来てそのままホテルへ。久々に会ったフジコは相変わらず、儚げで幸が薄そうだった。その陰鬱とした雰囲気の原因はなんなんだろうと、2年間彼女を間近で見てきたが、その原因はまったく解らなかった。
 とにかく彼女はいつも無関心で無気力だった。
 
 もっと自分の身体を大事にしたほうがいい。
 1ヶ月前再会して、彼女が今も誰とでも寝るような生活を続けていると知って、彼女のためを思って言った言葉も、わからないという一言で返されてしまった。
 2年間彼女と一緒に居てわかったのは、彼女はすべてを「わからない」と言うことで放棄しているということだけだった。僕だってフジコが何を考えているかわからないし、所詮他人の考えていることなんて、解り得ないものなんだと今では思う。