マニキュア、少女

 お昼ご飯を買いに行くついでに、商店街のファンシーな店でマニキュアを買う。
 昨日買ったばかりの紅色のソールのサンダルに似合う赤紫のマニキュアを買った。200円。地味な服装の自分に深い紫は似合わないと思った。爪の地色に近い赤系の、透明感のある赤紫を選んだ。
 会社に戻って誰もいない事務所の片隅でスリッパを脱ぎ足の爪にマニキュアを塗る。
 マニキュアを塗るのが得意ではなかった。会社にリムーバーは無い。一緒に買えばよかったと一瞬後悔。そもそも今日は爪も磨いていないし手入れもそこそこ、綺麗に塗れるはずがない。今日はデートでもないしとりあえず塗ってみることにした。
 縁でしごいて薄めにマニキュアを伸ばす。桃色の爪に同化してほんのり紅く色付いた。
 サンダルのソールの紅色にはほど遠い。予想していたよりもマニキュアは赤い。
 左足、右足と一巡。乾燥時間に変わりはないだろうが、足をブラブラさせてみる。遠めから見ると意外と赤い。しかし赤い。赤紫ではない。
 このままでも十分かと思いはしたが、せっかくサンダルとお揃いの赤紫のマニキュアを買ったのだからもう少し色を出してみよう。
 乾いた左足を再度引き上げ、上からマニキュアを塗ってゆく。今度は気持ち多め。
 薄い赤の爪が濃い赤に変わってゆく。心持ち紫。発色はかなり良くなった。
 両足を塗り終え足をブラブラ。
 足だけに塗るつもりだったが、薄く塗るとそれほど派手な色ではなかったので手にも塗ることにした。
 案の定あまり綺麗に塗れはしなかったが、爪色に近くて透明度の高いマニキュアを選んだおかげで塗りムラは目立たない。
 両手を塗り終えて、完全に乾くまでの間、ぼーっと足の爪を眺めた。
 先ほど見たときよりも赤くいやらしい色に見えた。
 その赤いマニキュアを塗った足が母親を彷彿とさせた。
 この赤い爪で今日も誰かを誘うのだろうか。
 思えば思うほど自分の足が自分の足に思えなくなって、乾きかけの手の爪のことも忘れ、一心不乱にティッシュで足の爪を拭いた。
 乾ききったマニキュアが水道水に漬しただけのティッシュペーパーで落ちるはずもなく、拭いても拭いても爪は赤く、いやらしい。
 落ちない爪と対称に塗りたての手のマニキュアは、汚らしく点々と剥がれ落ちていた。
 息が荒くなるくらい必死に水でマニキュアを洗い流そうとしていた自分を見て、笑えた。
 やはりリムーバーを買うべきだった。