43 超能力やUFOを信じますか?

 午前11時にセットした目覚まし時計が鳴る前に目が覚めてしまった。午前10時。実は8時半にも一旦目が覚めて寝なおしたのだが、毎日8時に起きて出勤してきたのだから突然11時まで寝ていろという方が無理なのかもしれない。折角の休みに早起きしてしまって何故か損した気分になった。よく考えると明日からずっと休みなのだからこれからいくらでも寝られる。ひとまず何か飲もうと冷蔵庫を開けるが麦茶のポットは空のまま、牛乳は賞味期限が半月も前だったので、仕方なく冷凍庫から焼酎用の氷を取り出し口に入れた。できるだけ小さな氷を選んだつもりがやはり製氷皿サイズの倍程あり口の中が氷でいっぱいになる。仕事を辞めたら部屋の掃除をして、昔の彼氏の置いていった荷物を清算して、プレステ買ってドルマゲスでも倒そうと思っていたのだけれど、いざ休みとなると手持ち無沙汰感が否めない。部屋の隅に置かれたプレステもまぁいつでもできるしといまいちやる気がでない。近所の図書館で小説でも読み漁ろうかとシャワーを浴びて、バスタオルのまま寝室で何気なしにテレビをつけるといいともで、思わず見入ってしまった。ごきげんようのゲストがあまり魅力的ではなかったので、いい加減乾いた身体に服を着て部屋を出た。
 エレベータの下ボタンを押し8階から降りてくる表示板を見ながら毎回これ階段で降りたほうが早いよなと思うが足は動かず。表示が3回になったときほんの気まぐれで上ボタンを押した。エレベータには誰もいない。下へ降りようとするエレベータを無理やり上へ向かわせる。行き先階は11階。最上階。建物の作りこそ一緒のものの、いつも暮らす地上3Mとは全く違う感じがした。周りのマンションに囲まれていない11階の共用廊下を左に進み、屋外階段を上がる。屋上へ入る入り口には大きな南京錠の付いた扉があり中へは入ることができない。しかし扉自体の高さが1Mほどだったので、気合を入れてよじ登った。元々オフィスビルの屋上へ上がるのが好きだったから、慣れたものだった。
 1フロアにワンルームが6つあるこのマンションの屋上は思ったよりもずっと小さかった。周りのビルの屋上が見える。高速道路が遥か下に見える。中央環状線が南北にずっと延び、西を中心に緩く弧を描いている。空は晴れて暑くあぁ日焼け止め塗ってくるべきだったと後悔。今更2階の自室へ戻る気も起こらず影のない屋上の頼りないフェンスに軽く持たれ空を見上げる。平日の昼間にマンションの屋上で空を見上げている自分を見てあぁ無職なんだなぁと実感する。
 ぼーっと空を見ていると雲の合間から黒い点が見えて飛行機かしらと見つめるうちにそれはどんどん大きくなり、これってもしかしてUFOとかいうんじゃないよねとほんの少し焦り始めた瞬間、点から円盤に成長したそのUFOみたいなものの腹から明るい光が延びてきた。晴れた午後の屋上よりも全然明るい光の中で、あぁステージでスポットライトを浴びるアイドルってこんな感じなのねなどとのん気に考えていた。
 多分、よくあるような感じで私の身体は光に吸い込まれるようにしてUFOの中へ入ったと思う。気が付くと目の前には宇宙人。かどうかは定かではないが、つるっとしたいわゆるキューブリックらしい宇宙人(キューブリックの映画は見たことがないけれど、A.I.に出てきた宇宙人(未来人だっけ)ってキューブリックっぽいんでしょう?そんな感じ)が3人。彼らは細い腕を動かしながら何かを伝えようとしている(ように見える)のだが勿論日本語はおろか英語を話してくれるわけはなく、どうもできずに無反応でボケッと突っ立っていると先日会社で言われたようにお前使えないんだよと蔑みの目を向けられたような気がして、あぁ無職なんだなぁと再度思った。