シチュー

 電話の向こうの加奈子はころころと笑い声を上げる。
 9月末の深夜は肌寒くTシャツの上にフリースを羽織ってきたもののまだまだ風が冷たかった。アパートの屋外階段に腰掛ながら空を見上げる。曇っているのか排気ガスの所為なのか星は見えなかった。
 料理が上手くなったんだと加奈子はうれしそうに話す。肉じゃがも作れるんだから。おーすごいすごい。今度作ってあげるよ。それは楽しみだ。ねぇ何が食べたい?うーん。がんばって作る。シチュー。えー!シチューなんて作れるよーカレーも作れる。カレーと肉じゃがって一緒なんだよ。うん知ってる。えーなんで知ってるの。お母さんが言ってた。まじでか。肉じゃがとかも作れるんだよ。シチューで。えー。シチュー。シチュー好きなの?うん。じゃぁシチュー作る。うん。ブロッコリー入り。うん。お嫁さんが欲しくなったでしょう。えー。お嫁さんになってあげるよ。
 ころころと機嫌よく笑う加奈子の声を聞きながら、でもまたすぐにほかに好きな男ができるんだろうなと思って僕も笑う。