寝息

 電話の向こうの寝息を聴いて、子どもみたいと7つも上のひとを想う。
 携帯電話が176分話してたよと御節介にも僕に伝える。3時間の間に僕らは仕事の愚痴をこぼし、今日食べたものを報告して、面白かった本を勧めて、お互いの好きなところを絶賛し合って、血液型の話題で喧嘩して、無言になって、こころのないごめんなさいに辟易して、怒鳴って、泣かせて、好きだと伝えて、仲直りして、無言になって、何もないのに笑ったりして、セックスして、少し雑談して眠る。1日が3時間に凝縮されたようで、こんなことを続けていけば、他のひとより早く歳を取るんじゃないかと彼女が言う。いくつになっても僕は美雪さんが好きですよと精一杯こころを込めて伝える。ありがとう、でもあなたが30になったらあたしもう37なのよおばさんだわ、と少女のように笑う。僕はまだ23歳だけれど彼女を護りたいと思う。30の女性に対して少女は失礼なのかな。