坂の多いこの町で、暮らしてもう何年になるだろう。
 
 僕は何人目かの女の子の手を引いて坂を上る。僕が嫌いなこの急な坂を海が見えるから好きと彼女は言う。何度も見慣れた景色が不思議と違った風に見えて、単純な自分が少し可笑しい。どうして笑っているのと不思議そうに訊ねる彼女を見て僕はまた少し笑う。
 
 坂を上った先に展望台なんて洒落たものはないけれど、病院の駐車場から町が一望できる。晴れた日は海の向こうの町が見える。僕は彼女にそれを見せてあげたかった。
 僕の生活から彼女が消えて、急な坂だけが変わらずにいる。