七夕の夜、

 FMラジオが得意気に音楽を鳴らす。時の銀河に裂かれてもとはよく言ったもんだと仕事の手を止めて一息つく。書きかけの図面を一旦下げてブラウザのショートカットをダブルクリック。検索バーに文字を打ち込む。見覚えのあるアルバムジャケットが目に留まり、そういえば晴れた朝の日に流れていたなと少し前のことを思い出す。
 机上のカレンダーを見ると7月5日。咲子と離れて2ヶ月経ったことに気付く。1ヶ月前はもう1ヶ月も経ったのかー早いねーなどと言っては笑っていた気がする。2ヶ月経った日は1週間と半分も前で、その日に何をしたのかも思い出せない。勿論咲子とは連絡を取っていない。
 咲子に連絡を取ってみようかと時計を見る。今の時間なら丁度仕事が終わった頃かもしれない。少し文面を考えてすぐに全文消去する。少し前に小さな喧嘩をしてそれ以来うまくコミュニケーションが取れない気がしていた。咲子はいつも通りに話をしていた。僕はいつまでもぐずぐずと引きずっていた。
 いつまでも前のことを引きずるところがしんどいのよと前の彼女が去った。やはり咲子も同じことを思い離れていくのかもしれない。そこまで考えて初めて、自分の問題に気がつく。何も変わっていない自分にうんざりし、自分にうんざりして問題を流そうとする自分にもっとうんざりする。そうやって考えても仕方のないことばかりぐるぐるぐる考えるのが勇ちゃんの悪いところだと言ったのは誰だったか。
 もう一度メール画面を開きキーを叩く。今度はお仕事お疲れ様の一文しか書けなかった。
 検索ボタンをもう一度押し、並ぶウェブサイトの中からひとつを選ぶ。君に逢いたいとたくさん出てくる歌詞を見て咲子を思う。久々に咲子に逢いたいと思う。やっぱりメールを送ろうかと一文しかないメールの続きを書き出す。結局他愛もない話を数行しか書けなかった。送信ボタンはまだ押せない。遠く離れた咲子とは、3日後の七夕までに逢えることはないだろうが、仲直りすることならできるだろうか。
 長いこと離れてたのに別人にならなかったねと歌は続く。僕は送信ボタンを押す。