2005-01-01から1年間の記事一覧

サイレン

消防のサイレンの音で目が覚めた。ここに越してきて4ヶ月が過ぎようとしているけれど、サイレンの音を聞いたのは初めてだった。 実家はここから電車で1時間の隣町にある。近所に消防団のポンプ車の車庫があるから、サイレンが鳴るととてもうるさい。遠くに…

散らばる散らばる

散らばったこころを拾い集めて大急ぎでかたちにしたから、家に帰る途中で崩れてしまった。東京メトロの中で崩れてしまったこころをさっきみたいに大慌てでかき集めた。いくつか遠くに飛んでいってしまったこころが見えたけど、午後九時の地下鉄は大層混んで…

憎しみスープ

守るとか救うとかは所詮ファンタジー小説の中だけで通用する言葉。そういうの、片方のエゴでしかないもの。彼女はそう言い放った。そんな悲しいこと言うなよと一応言い返してみたが返事は無かった。 僕は彼女を守りたいと思った。思ったからそう伝えた。彼女…

実録

「お前ってなんか男友達みたいだよな」 携帯電話越しのその一言に思わずブチっと切れかけたものの、5年という社会生活で培った精神統一方法を使い「よく言われる」と能面の表情で応える。「男に生まれた方が良かったんじゃないの」ごめんこの一言で能面脱ぎ…

水銀灯

真由子は色の白い女であった。化粧気の無い真白な頬に触れたいと思ったことは度々あったが、その度に工具の油で汚れた自分の黒い指を慌てて引込めた。そんなときいつも真由子はにこりとこちらを見るのだった。彼女の汚れを知らない無垢な笑顔を見ていると、…

weezer

(インターホンが鳴る。深夜1時半。モニタ越しに見慣れた顔の男。今日はめがねをかけていない。解除ボタンでオートロックの扉を開ける。1分もかからないうちに再度インターホン。ドアの向こうに男の影を確認する前にロックを開ける。何度も見慣れた顔の男。…

不感症

こういうことはもうやめにするわ。へぇまたそれはどうして。だってこういうことすることに対して、何も、感じないんだもの、それってすごくだめなことだと思うわ。へぇ根本的なところはだめって思わず、君自身の考え方がだめって思うからなんだ。そうよ、だ…

私生活の安売

私生活の安売というサイトがある。ググればすぐに出てくるかなりの大手サイトだ。そこではその名のとおり様々な人々の私生活が売買されている。その私生活をどう使うかは購入者の自由である。実を言うと、このサイトの各日記もその私生活の安売というサイト…

繭子

モニタの向こうで目が大きい少女がにこにこと笑っている。さすがロリ系20歳以下で検索しただけあって、幼い顔つきの女の子だった。髪は黒い。暗めのカラーリングをしているのかもしれないが、このカメラの精度では判別がつかない。 名前は繭子。19歳。何故か…

雨宿り

もめん、こ?ううん、木綿に子でゆうこって読むらしいよ。へぇ。浜木綿子っていうひとがいるみたい。へぇ。あと、ちゃんとゆうこって打ったら変換で出るんだよ。へぇ。グーグルで調べたの。へぇ。……。雨だね。うん。雨、止まないね。うん。でも、帰るころに…

懐妊出産

突然産まれたわたしの子どもは、十分わたしの生活を侵していった。今までインターネットをしながら紅茶を飲んで過ごしたわたしの深夜は見事に無くなり代わりに、食器と洋服の洗い物と食事の用意が今までの3倍ほどに膨れ上がった。我侭に振舞う子どもを見てこ…

犬というのは所詮は家畜で、人間としてみなくてもよいと教えてくれたのは叔父だった。幼い頃に両親を事故で亡くし、彼の家で育てられた。叔父は40間近でありながらも独身で、しかし家にはいつもひとの気配がした。一度だけ誰かいるのかと問うたが、あれは犬…

歓声

背後で歓声が聞こえる。これは空耳かもしれないし、振り返るとスタジアムなのかもしれない。壺の中は干菓子が入っているのか或いは骨なのか僕には断言することはできないと秋彦さんが言っていた。僕は関口くんと同じように眩暈がしたし、壺に恐怖した。きっ…

緊縛

土曜日、起きると時間は12時で、駅まで自転車で10分だったけれど、とても焦った。急いでシャワーを浴び、髪を乾かした。ジーパンにシャツを着て、クローゼットの中から赤い紐を取り出してカバンに詰め込み念のため、コンドームを数個入れておいた。はじ…

お医者さんごっこ

イトーヨーカドーでおもちゃの聴診器買ってきた。僕は大学の実験用の白衣を着て、聴診器を首から提げて、寝起きでパジャマ姿の美雪をダイニングの黒いスツールに座らせて診察する。 「はーい。聴診器当てますから服ちょっとあげてくださーい。」 半分寝ぼけ…

お隣の松井さんの家の2階、多分長男の秀一君の部屋から、女の悲鳴が聞こえる。毎週日曜日、時刻は3時頃が多い。初めて声を聞いたときは何事かと思いびっくりして窓を開けた。そのときから度々、悲鳴が聞こえるようになった。それがセックスの歓喜の声だと気…

和美

交際期間約半年を経てとうとう僕らは京橋のラブホテルへ入った。お金もないので一番安い部屋にしようと思ったのに、和美があーこの部屋かわいい!と無駄にファンシーな部屋を指差しそのまま702のキーを引き抜いた。 和美とはコミュニティサイトという名の出…