私心

僕は倫子の描く絵がとても好きだった。僕は倫子自身をとても好きだった。 僕が好きだったのは彼女か彼女の才能か。 彼女と別れて数年後、手にした洋書に彼女の黒い絵を見つけたとき、僕の中の何かが溶けた。 僕は倫子の描く絵がとても好きだった。僕らは離れ…

造形学校で同じクラスだった倫子は、真黒に塗りたくったカンバスに「黒」と名付けて提出するような少女で、作風は難解を通り越して率直というかそのまんまのものが多かった。それでも僕は彼女の「黒」を見たとき、敵わないと思った。彼女のことをもっと知り…

飯田

折角来てもらって悪いんだけど、さっき生理になっちゃって。 飯田にそう伝えるとフェラチオを強要されて、拒否すると頬と腹を殴られた。 飯田がここへ来るようになって2ヶ月が過ぎた。大手通信会社のサラリーマンである彼は仕事の帰り道である私の家へ寄るこ…

シチュー

電話の向こうの加奈子はころころと笑い声を上げる。 9月末の深夜は肌寒くTシャツの上にフリースを羽織ってきたもののまだまだ風が冷たかった。アパートの屋外階段に腰掛ながら空を見上げる。曇っているのか排気ガスの所為なのか星は見えなかった。 料理が上…

75 日記は書いていますか?

久々に眠れないのは間違いなく、昼夜逆転した生活の所為であり、決して精神的な問題があるだとかそういうものではない。しかして一人暗い部屋で横になるとじわりと涙が滲み、布団で拭こうかとして、化粧を落としていないことを思い出した。 枕元の壁に掛かる…

おやすみなさい。

時折無性に寂しくなって、夜中の二時半に電話をすれども繋がるわけはなく"もう寝た?"とだけメールを入れて玄関でしゃがんで少し泣いた。 向き合って目も合わせず、肩元に顔を寄せる。間近で顔を見ることができず、未だに口を合わせることすらままならない。…

43 超能力やUFOを信じますか?

午前11時にセットした目覚まし時計が鳴る前に目が覚めてしまった。午前10時。実は8時半にも一旦目が覚めて寝なおしたのだが、毎日8時に起きて出勤してきたのだから突然11時まで寝ていろという方が無理なのかもしれない。折角の休みに早起きしてしまって何故…

46 最近の凶悪犯罪についてどう思いますか。

8年振りに会った元彼女がヤリマンのさせ子に変身していた。ホテルでセックスした後、中学の同級生3人ともやったことを普通に打ち明ける彼女を見て、なんだか無性に腹が立ったから乱暴に2回セックスした。(2回とも彼女は歓喜の声を上げていた)顔に精子ぶ…

42 人間のクローンについてあなたの考えは。

ねぇ、あなたはどう思う?どう思うってそれ、誰に尋ねているの?誰って、クローンである貴方に尋ねているの。僕はクローンだからその問題についてどうこう議論できる立場にはないな。あら、お堅いひと。君が選んだ男だろう?ええ、そうね私と、私の姉が選ん…

45 世界平和は実現しますか。

中庭は唯一病院の匂いのしない(正確にいうと病院の匂いの薄い)場所だった。28になるまで病院とは無縁の生活をしていた僕には、たった数日の入院でも息が詰まりそうだった。偶然見つけた中庭で昼寝をすることが僕の日課(まだ入院2日目だけれど)(しかも明…

始まる前に終わる

最初に誘ったのは彼女の方だった。CDを焼かせて欲しいという彼女の誘いに応じ、部屋に招き入れられた。見慣れたその部屋はいつもに比べ数倍は片付いており、シンクに食器が数枚溜まっていたものの床には何も落ちていなかった。室内用の物干しにTシャツやら…

7月12日

12時5分に母親が孝ちゃんお誕生日おめでとうと言った。その言葉で気付いた訳ではないけれど、僕は26歳になった。 パソコンのタスクの時計を見る。12時を少し回ったところ。今日は1年前に別れた恋人の誕生日だった。孝一と別れた後、私は合コンで知り合った男…

電車男

瞑っていた目を開けると、ラフなサンダルの女の足が目に入った。 僕の前に白いワンピースにグリーンのカーディガンを羽織った女が立っていた。細い彼女には似合わない大きさの腹が妊婦であると控えめに主張している。妊娠初期なのか、まだ腹はそれほど重そう…

Musical Baton 2 

小噺もそこそこ。 id:nisinaoさんからMusical Batonが回ってきたので突然答えます! ●Total volume of music files on my computer (コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量) 5GBくらい。 ●Song playing right now (今聞いている曲) スチャダラのなんなの…

Musical Baton

「あなたに、クリスティーヌは譲るわ。今度の公演、がんばって」 かつての看板女優は、そこにはいなかった。 劇団に入って5年。数々の舞台で主役を演じて来たが、2歳先輩の彼女の演じるクリスティーヌ役だけは貰えなかった。私が女優を志そうと思ったきっか…

マニキュア、少女

お昼ご飯を買いに行くついでに、商店街のファンシーな店でマニキュアを買う。 昨日買ったばかりの紅色のソールのサンダルに似合う赤紫のマニキュアを買った。200円。地味な服装の自分に深い紫は似合わないと思った。爪の地色に近い赤系の、透明感のある赤紫…

アロンアルファと包茎手術

「皮を引っ張ってアロンアルファでくっつけるんだって!」 沙織がアロンアルファ片手ににこにこと楽しそうに話す。少しアホっぽい。 前戯もそこそこ、さてベッドに移動しようかねというところで沙織が机の引き出しからアロンアルファを持ち出した。 「汚いか…

フジコ

もうさー意味のないセックスはしないでおこうと思うんだ。 僕の上で腰を揺らしながらフジコが言った。 で、これはなんなわけ?セックス。もうしないんじゃなかったの?あーうん。してるじゃん。うん。なんでしないでおこうなんていきなり思ったの?だって、…

色気と勃起

斉藤アキは高校の同級生で一番中の良い女子。いつもジーパンにオールスターで化粧っ気がない。そんなアキが今なぜか僕の下半身を弄っていて、僕は彼女を男友達と同列に並べていたにも係わらずこれでもかってくらい勃起していた。つーか斉藤の触り方がえろい…

和美

悪い子だね。僕は平静を装って和美に伝える。 僕の下腹部に顔を埋めた和美は僕からそっと口を離し「悪い子は嫌いですか?」と悪そうに笑いながら言った。いいや、と少し間を空けて答える。少しはニヒルに聞こえたかもしれない。そう思った瞬間、鼻で笑われた…

サイレン

消防のサイレンの音で目が覚めた。ここに越してきて4ヶ月が過ぎようとしているけれど、サイレンの音を聞いたのは初めてだった。 実家はここから電車で1時間の隣町にある。近所に消防団のポンプ車の車庫があるから、サイレンが鳴るととてもうるさい。遠くに…

散らばる散らばる

散らばったこころを拾い集めて大急ぎでかたちにしたから、家に帰る途中で崩れてしまった。東京メトロの中で崩れてしまったこころをさっきみたいに大慌てでかき集めた。いくつか遠くに飛んでいってしまったこころが見えたけど、午後九時の地下鉄は大層混んで…

憎しみスープ

守るとか救うとかは所詮ファンタジー小説の中だけで通用する言葉。そういうの、片方のエゴでしかないもの。彼女はそう言い放った。そんな悲しいこと言うなよと一応言い返してみたが返事は無かった。 僕は彼女を守りたいと思った。思ったからそう伝えた。彼女…

実録

「お前ってなんか男友達みたいだよな」 携帯電話越しのその一言に思わずブチっと切れかけたものの、5年という社会生活で培った精神統一方法を使い「よく言われる」と能面の表情で応える。「男に生まれた方が良かったんじゃないの」ごめんこの一言で能面脱ぎ…

水銀灯

真由子は色の白い女であった。化粧気の無い真白な頬に触れたいと思ったことは度々あったが、その度に工具の油で汚れた自分の黒い指を慌てて引込めた。そんなときいつも真由子はにこりとこちらを見るのだった。彼女の汚れを知らない無垢な笑顔を見ていると、…

weezer

(インターホンが鳴る。深夜1時半。モニタ越しに見慣れた顔の男。今日はめがねをかけていない。解除ボタンでオートロックの扉を開ける。1分もかからないうちに再度インターホン。ドアの向こうに男の影を確認する前にロックを開ける。何度も見慣れた顔の男。…

不感症

こういうことはもうやめにするわ。へぇまたそれはどうして。だってこういうことすることに対して、何も、感じないんだもの、それってすごくだめなことだと思うわ。へぇ根本的なところはだめって思わず、君自身の考え方がだめって思うからなんだ。そうよ、だ…

私生活の安売

私生活の安売というサイトがある。ググればすぐに出てくるかなりの大手サイトだ。そこではその名のとおり様々な人々の私生活が売買されている。その私生活をどう使うかは購入者の自由である。実を言うと、このサイトの各日記もその私生活の安売というサイト…

繭子

モニタの向こうで目が大きい少女がにこにこと笑っている。さすがロリ系20歳以下で検索しただけあって、幼い顔つきの女の子だった。髪は黒い。暗めのカラーリングをしているのかもしれないが、このカメラの精度では判別がつかない。 名前は繭子。19歳。何故か…

雨宿り

もめん、こ?ううん、木綿に子でゆうこって読むらしいよ。へぇ。浜木綿子っていうひとがいるみたい。へぇ。あと、ちゃんとゆうこって打ったら変換で出るんだよ。へぇ。グーグルで調べたの。へぇ。……。雨だね。うん。雨、止まないね。うん。でも、帰るころに…